わたし的「バイブル」を紹介する Vol.03
アシスタントディレクターの佐藤です。
今回紹介するバイブルは
伊藤計劃『ハーモニー』(早川書房)
日本SFに衝撃を与えたデビュー作から2年、34歳の若さでこの世を去った小説家、伊藤計劃。そんな彼の遺作がこの作品です。
舞台は21世紀後半。高度に発達した医療技術により「誰も病気で死ぬことがない世界」が実現していました。人々はWatchMeという身体監視システムを体内にインストールし、ネットワーク上で健康状態を管理、少しでも変化があれば、すぐに適切な処置(投薬やカウンセリングなど)が行われます。
メンタル面も例外ではありません。現代では溢れる情報を、個人の判断で取捨選択していますよね。しかし、この世界では過去の記録からネットワークによって適切な情報だけが選ばれ、精神的健康を害する恐れのある情報はすべて調整されています。
そんな健康すぎる社会に倦んだ少女たちの物語です。
人間は、なぜ人間であるのか
物語の中では度々、身体が完璧に管理される世界での人間の“意識”について語られます。初めて読んだときは、その理解が本当に難しく、なかなか読み切ることができませんでした。
読み進めるうち、自分が人間である限りとても身近で、死ぬまで向き合うもの(魂ってあるの?死んだら私はどうなるの?といったようなこと。)について、伊藤氏なりに追求したものなのだと気づきました。詳しくは割愛しますが、病床にいたからこそ突き詰められた人間の“意識”のあり方について、衝撃と影響を受けたので、わたしのバイブルとなりました。
悩んで選ぶことができる世界
私は優柔不断で選ぶことが苦手です。この文章ひとつ書くにも、どの本にしようか、なんという言葉にしようか、何文字くらい書こうか、と無限に悩みはつきず、苦しくなります。でも悩んで選ぶ行為こそが私の“意識”で、つまり私なのだそう。
そういえば、お仕事で書かせていただいた文章など、生み出すときは苦しくても、完成したものを読むと、ほとんどの場合はなかなか気に入ったものになります。それは私がたくさん悩んで選んでできた、私だからなのかも。
この小説でもっとも評価されていることの一つに、HTMLタグのような記述が随所にあるということがあります。なぜこのようになっているのか物語の終わりに明かされるのですが、伊藤計劃の才能に脱帽といった感じです。これは読者にならないと体感できない驚きなので、ぜひ読んでみてください。
次回は弊社デザイナーのすうぇけの講釈で会いましょう。それでは。
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