わたし的「バイブル」を紹介する Vol.02
こんにちは。デザイナーのヒマラヤです。
今回紹介するバイブルは
志村正彦『志村正彦全詩集』(PARCO出版)
“最後の花火に今年もなったな”
突然ですが、みなさまは志村正彦という人物をご存知でしょうか。
そう、彼は2009年12月に急逝してしまった、ロックバンド「フジファブリック」のフロントマンです。
そして、きもちわるくも愛おしい、ひねくれてるけどまっすぐな、音楽と詩の申し子、孤独な天才なのです。(※私見です。)
↑ケースから取り出すと、「やくざネコ」(画:志村)が顔を出す。
そんな彼が書き遺したすべての歌詞を収録した詩集がこちら。フジファブリックをご存知ない方も、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。
私見ですが、特にクリエイターの方にはおすすめ……。きっと創作意欲が湧くのではないかと思うのです。その理由、魅力を自分なりに解説してみたく、しばしお付き合いいただけましたら幸いです。
↑『四季盤』と呼ばれる4枚のシングルCD。春夏秋冬のフジファブリックが満載。
“桜の季節過ぎたら遠くの町に行くのかい?”
魅力1:「叙情性/普遍性」
志村氏の詩は曲・メロディーを離れて単体で読むと、まるで純文学を読んでいるような、近代の孤高の詩人の作品を読んでいるような感覚を覚えます。
それは、学校の図書室の本はすべて読んだと言っていた志村氏の学生時代からくるものかもしれませんし、彼が生まれ育った富士吉田市の風景が日本人の原風景的なものと通ずるからなのかもしれませんし、天性のものからくるものかもしれません。
特に四季の描写が秀逸です。
“どうしてなのか なんだか今日は 部屋の外にいる虫の音が 花火のように鮮やかに聞こえてくるよ” -『虫の祭り』より
“赤黄色の金木犀の香りがしてたまらなくなって 何故か無駄に胸が騒いでしまう帰り道” -『赤黄色の金木犀』より
一年中、一生寄り添ってくれる普遍性があり、私は志村氏の詩を読むと無性にその季節の絵が描きたくなります。
↑インディーズ時代のミニアルバムは妖しさ満載。
“U.F.O.の軌道に乗って あなたと逃避行”
魅力2:「トンチキな妖しさ」
叙情的・普遍的な一方で、志村氏の詩にはわけのわからない、妖しい言葉がたくさん出てきます。
“「タッタッタッ タラッタラッタッタッ」と飛び出した” -『銀河』より
“あー ルナルナ お月さまのっぺらぼう” -『お月さまのっぺらぼう』より
“さあ ダバダバ ダバチ ダバダバダバ さあダバ ダバチテ” -『東京炎上』より
“夢の中であやかしパッション 響き渡るファンファーレ” -『パッション・フルーツ』より
それらがまたなんとも言えない心象風景を見事に表しているのです。感覚的な言葉によって想像が膨らみ、受け手の創作意欲がより刺激されます。これはなかなかできることじゃありません……天才すぎて意味がわかりません。
↑おすすめのCDたち。まだまだあります。
“環状七号線を何故だか飛ばしているのさ”
魅力3:「きもちわるさ/やるせなさ」
さらに志村氏の詩には、きもちわるさとやるせなさが深みを与え、愛おしい中毒性のあるものになっていると思います。
桜の季節に遠くに行ってしまう相手に向け、
“ならば愛を込めて 手紙をしたためよう 作り話に花を咲かせ 僕は読み返しては感動している!” -『桜の季節』
と手紙を出すこともできず、くすぶる想い。
海で泣いている見知らぬお嬢さんに
“気晴らしにちょっと散歩でも 言えるわけもない” -『NAGISAにて』
何をすることもできず、
見かけた花屋の娘さんには
“その娘(こ)の名前を菫(すみれ)と名付けました” と勝手に名付けたうえに、
“二人でちょっと公園に行ってみたんです” -『花屋の娘』
そのまま妄想にて脳内でかくれんぼ、通せんぼしたりする始末。
さすが、コンビニバイト時代にドリンク棚のバックヤードで可愛い女の子をペットボトルの間から見ていたという志村氏、たまらないきもちわるさです。(褒めています。)そのくせ音楽に対してのストイックさは修行僧のようでした。おかげで素晴らしい詩・音楽に出会えたことに、感謝雨霰です。
↑志村、うしろー!などと言っていた日々が懐かしく思い出されます。(※画像は別の雑誌達です。)
以上のような魅力満載の志村氏の詩・音楽を、一生のうちに自分なりに受け止めて、ものづくりに活かしたいなぁ、全く時間が足りないな、などと思ったりもしますが、そういった意欲をかきたててくれる言葉、音楽は素晴らしきかなと思います。
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