月夜の晩の不思議な話

デザイナーのimaiです。

昼間はいまだに、セミが鳴くような油断できない暑い日もありますが、夜はだいぶ過ごしやすくなりましたね。

窓を開ければスズムシなどの秋の虫の鳴き声も聞こえてきます。

この位の時期になると思い出すことがありまして。

さかのぼること二十数年前、私はバブル崩壊のアオリを受け大学4年の夏を過ぎても就職先が決まらないでいました。

その日もリクルートスーツで何社かまわり、久しぶりに実家に帰ろうと、いざ着いた頃には深夜12時近くになっていました。

寝静まった家族を起こさぬよう台所に用意してあった夕飯を食べていたとき。

少し開いた襖の隙間から、向かいの和室を白い着物の人影が行ったり来たりしている姿が目に入りました。

祖父はすでに他界していたので私はてっきり「あぁ奥の部屋の祖母を起こしてしまった」と思い、残りの夕飯をかきこむと祖母の部屋へ挨拶に行きました。

「おばあちゃん今晩は、起こしちゃってごめんね」と言いながらふすまを開けると祖母の布団はカラでした。

どこへ行ったんだろう?と思っていると気配を察した母も起きてきました。「おばあちゃんは?」と尋ねると「孫の家に遊びに行っている」とのこと。それを聞いた瞬間頭に浮かんだんです。あの白い着物の人は祖母ではなく、亡くなった祖父だったのではないかと。

いまだに就職先の決まらない孫を心配しているのではないかと。

実は廊下を挟んだ台所の向かいの和室は祖父の仏間だったのです。実家に帰った時は必ず仏壇に手を合わせるのが習慣でしたが、この日は夜遅かったのでお参りするのを忘れていたのでした。

「心配かけてごめんね…就職活動がんばるね」と祖父の遺影に手を合わせながら私はそのまま仏間で眠りにつきました。

それから2ヶ月ほどした11月始めの芸術祭の最中、やっとのことで印刷会社へ内定が決まった私は改めて祖父のお墓へ報告に行ったのでした。

祖母に言わせると私は亡くなった祖父の若い頃に生写しなのだそうです。いつも虫眼鏡で新聞を読みながらタバコをゆっくりくゆらせ、突然いなくなったと思うと孫たちにお菓子を買ってきたりする寡黙な祖父。

体調を崩して病院に運ばれた数日後にはベッドから起き上がり、集まった家族に「さようなら」と言って横になるとそのまま亡くなったのだそうです。祖父らしい最後だな…と妙に納得したのを覚えています。

亡くなってから数年は祖父の命日になると必ず停電するのでその度に「あ、おじいちゃんが来たな」と直感したものでした。

たくさんいる孫の中で遅くに生まれた私を特に可愛がってくれた優しい祖父でした。

そんな私も鏡を見る度に今では亡くなった祖母に言われるまでもなく「おじいちゃんに似てるなぁ」と思う今日この頃です。

manimani Media

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