わたし的「バイブル」を紹介する Vol.05
デザイナーのm.kです。
今回紹介するバイブルは
ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』
現代社会にも通ずる集団心理の恐ろしさ
飛行機が墜落し、無人島で漂流生活を送らなければならなくなった少年たちを描いた小説です。無人島でどうサバイブするか、ということよりも大人のいない集団の中で徐々に狂っていく心理状態に焦点を当てています。
十五少年漂流記の裏版ともいえそうな、極限状態に追い込まれた人間の集団心理の恐ろしさや、野生化して噴出した生存本能が人間に与える影響力、その渦中にどう在るべきかを試される怖さもあり、いろいろと考えさせられます。
影響力のある少年が作り上げた歪んだ集団心理に次々に取り込まれて麻痺していくなか、純粋な志を保ち続けようとする者がどういう結末を迎えるのか。また、その狂気に至る根源の真実を唯一見抜いていながらも無力がゆえに流されていく虚しさ。無人島での漂流生活という特異なシチュエーションながら、ここで描かれている人間の心理状態は今の社会にも存在していて一石を投じる、とても読み応えのある内容です。
作品を体現する不穏なデザインの装丁
装丁は池田満寿夫。
なぜタイトルを重複させたのか?人間の理性と野性を表しているのか?セオリーを覆した不安定で奇妙なレイアウトが不穏感を煽り、この小説の核を的確に表現しているデザインで、タイトルのインパクトと共に記憶に残る目を引きます。
もうあと数ページで終わってしまう…読み終わりたくないなぁ、という思いが湧き上がった一冊。まずタイトルと装丁のインパトに惹かれ興味を持ったのですが、エンターテインメントとしても読み応えがあり、さらに登場人物の細やかな心理描写に圧倒され、一気に物語に引き込まれていきました。感受性が鋭くいち早く真実を見抜いていたが、存在が希薄で語るすべをもたなかったが故に悲劇を迎えるサイモンという少年の存在が強く印象に残っています。何度か映画化されているのもうなずける名作です。
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