絵本から学ぶデザイン
デザイナーのsaoです。
私が母親稼業の一環として毎晩欠かさず続けていることに、絵本の読み聞かせがあります。理由は親子のコミュニケーションになることと、(誰と比べたこともありませんが)私の特技が絵本の読み聞かせだからです。内容によってリズミカルに、時に情感たっぷりに。登場人物が複数いると声音を使い分けるので、結構ヘトヘトです。子どもたちは私の口真似をしたり笑ったりして嬉しそうに聞いています。どんなことも本気で打ち込め、という背中を見せるための熱演ですが彼らに届いているのか……。怪しいところです。
そんな絵本は、年端のいかない子どもにも理解できるよう、作家さんのメッセージを端的に表現し形にしてあります。デザインも「余分な物を削ぎ落とし、本質を見つけ出す」という点では同じ。つまり、絵本はデザイン的発想を形にした究極形といえるのではないでしょうか。
今回は、日々絵本に本気で(!)接する私が、絵本から得た気づきをいかにデザインに生かすかということを考えてみたいと思います。
まずは誰でも子どもの頃に1冊は読んだことのある、五味太郎先生の絵本をご紹介。著作はなんと450冊を超える世界的な絵本作家さんです。絵本作家になる前は、工業デザインやエディトリアルデザインを手がけていたそうです。私は幼稚園の頃に『みんなうんち』を読み、忌避されるべき題材を真正面からユーモラスに描いている紙面に衝撃を受けました。大人になって読んでも新鮮な驚きをもって楽しめるのが五味先生の作品です。
『そらはだかんぼ!』
【あらすじ】ライオンの子がお風呂に入りなさいとお母さんに言われ、毛皮を脱いだらくまの子に。くまの子が服を脱いだら…?
読者を裏切る数々の展開が待ち受けていて、大人でも引き込まれてしまう魅力が詰まっています。すごいな~と思うのは、この展開は絵本でしか実現し得ないものなんですよね。これを実写で映像化するのは不可能だし、仮にやってしまったら野暮というものでしょう。実写だと最初から違和感があって、勘のいい子ならオチが分かってしまいます。絵本(=紙)という媒体の特質を遺憾無く発揮した本当に素晴らしい絵本です。
この絵本で、紙ならでは(反対に、WEBならでは)の提案ができたらいいなという気づきをもらいました。コンセプトに沿って、紙なら判型や紙質を考えるところから始まり、仕掛けを表現するのに最適な加工を考える、といったことがあります。これが出来るのは紙の強みで、「ならでは」ですよね。
また、逆境を逆手に取った表現についても考えが及びました。盛り込みたい内容が多すぎる、コストを抑えたい、などなど制作にはたくさんの悩みがつきものです。そういった悩みがプラスに転じるような、より魅力的に見えるような方法を探る。個々のお客様「ならでは」を引き出すことがデザイナーの仕事だなと改めて感じました。
『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』
【あらすじ】ワニさんが虫歯になって歯医者さんに行くことになりました。ワニさんが歯医者さんをみて「どきっ」。そこで歯医者の先生(人間)が、患者のワニさんをみて「どきっ」。お互いを怖がっている二人はどんなやり取りを始めるのでしょうか?
種明かしをすると、実は最初から最後まで2人のセリフは全く同じ。患者のワニさんと人間の歯医者さんの立場の違いを利用し、それぞれの心境に落差があることを見事に表現しています。立場が違う2人に同じセリフを喋らせて、コントラストを楽しむとは……。なんとオシャレ(語彙力よ)。五味先生のユーモアが凝縮されていて、ただ唸るしかできない傑作中の傑作です。
デザインと一緒にコピー案を考えるお仕事もいただくのですが、こういったユーモアは忘れないでいたいですね。コピーだけではなくデザインにおいても、繰り返しの妙といったアイデアを生かしたら面白くなりそうだなと思います。コンペなどでも、ここまで力強いコンセプトと圧倒的な画でご提案できたら……もう最強です。私はただデザインが好きなだけでデザイナーを続けている者なので、未だに生みの苦しみが辛くて辛くて、毎回今夜こそ逃げようと思い悩むのですが、こういう洗練された作品に出会うと触発され、ざわざわと血が騒いでしまいます。
絵本の製作も承ります!
弊社メタ・マニエラでも、絵本の製作実績があります。
「むちゃぶりかみしばい」 デザイナー:古津薫
お笑いトリオ・ロバートの山本博氏が描く、初の絵本を製作させていただきました。子どもから大人まで楽しめるオススメの一冊です。
「ムーミン谷のなかまたち DVDブックレット」 デザイナー:清家舞
こちらは絵本ではないのですが、可愛いので一緒にご紹介。DVDに付属するブックレットを製作させていただきました。制作秘話や見どころ、各エピソードごとに登場するキャラクターたちを徹底紹介しています。
お問い合わせ、ご依頼はこちら http://meta-maniera.com/ からどうぞ。
さて、今夜も子どもたちのために、そしてデザインに出会うために絵本と向き合いたいと思います。それでは。
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