わたし的「バイブル」を紹介する Vol.04


デザイナーのsuuekeです。


今回紹介するバイブルは

ITO JUN『WORLD USAGI TOUR 1996』




ボールペン・イン・マイ・ポケット



はじめに著者である彼について。

自分にとって、ものすごいワクワクを見せてくれた人で、おそらく他にも同じような気持ちになった人がいるはずなのに、ネット上に全然情報が本当に出てこない人。第1回「日本グラフィック展」の大賞受賞者で、数年前には雑誌「アイデア」でも彼の特集が組まれた……なのにあまりにも情報がない、不思議な人。

今から20年近く前、そんな伊東淳/ITO JUNという人の、とある本を手にしたハタチのわたしは衝撃を受けていました。「STUDIO VOICE」か「美術手帖」か、小さく載っていた彼の本が頭から離れず、取り扱っている本屋を調べて買いに行った日のことでした。




それは真っ黒のBOXに入った真っ黒なフリップブック(パラパラ漫画)。黒地に白い絵が印象的ですが、真っ黒の紙に白ペンで書いたのではなく、実は白い紙に1本の黒いボールペンで闇の部分を塗りつぶしながら1枚1枚絵を描いていました。

さらにはそれを4年かけて227ページ分もの大作(本の側面まで本人が一つずつ黒く塗装したそう。)にしたというこの本には、白い紙に1本のボールペンを握りしめて向き合った彼の純度の高い魂を見たような気持ちがしました。




しかし実際のところ、この本に触れた人は、そんな背景を忘れて本の世界観に入り込んでいったのではないかと思います。

夢の中か異世界か? 君たちは誰? これは誰の目線?


パラパラめくるとこんな感じ。小さく見えるかもしれませんが結構な厚みと大きさがあります。




薄暗い建物の中をゆっくり浮遊するように進んでいく。目の前に広がる部屋や廊下、そこに見えるもの全てがしっとり怪しくて、もうここにしか世界がないようにも思う。そんな、ひとつの世界を見たような気分になります。

もともと私は、デヴィッドリンチやキューブリックのような不穏な夢世界や、ヘンリー・ダーガーのようにコツコツ描いた絵が何らかの力により昇華されたもの、漫画でいうと逆柱いみり作品や「少女終末旅行」のようなディストピア世界探索感など、そんな雰囲気のものが昔からすごく好きなようで、それらを全部含んで圧倒的世界を作り上げているこの本は、どんなときも見るだけでひとつのスイッチになってくれました。ざわつき、どきどきし、驚き、考えたりしながら、最後まで見ると不思議にも心が落ち着きます。



雑誌『アイデア 367』(2014)にはページを一部抜粋したものが掲載されています。




少し俯瞰で見れば、227ページをボールペンひとつで4年かけて描いたという物量的側面が、本となって手元に乗ることでずっしりと読み手になにかを訴えてくるのもまた事実で、自分の人生では初めて本自体を完全に一つの作品として感じ取り、全体から立ちのぼる人の魂のきらめきの瞬間を見せてもらった本でもあります。



ナンバリングと本人のサインも!本当に実在するんだ!



ちなみに、1980年に第1回日本グラフィック展で大賞をとった絵は、当時スーパーリアリズムが大旋風を巻き起こしていた中で大きく趣を異にする、ヘタウマともアニメ的とも言える画風でした。


雑誌『アイデア 367』(2014)より。左ページには未発表だった絵も。



どの絵の世界観も『WORLD USAGI TOUR』と通ずる部分があり、伊東淳だけの絵が確実にあることを感じます。あまりに情報が少ないため、今どこでどうされているのかわかりませんが、どうか、気が向いたらでもよいので、今も絵を描き続けていてくれたらと願っています。



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変わるデザイン。変わらないデザイン グラフィック/エディトリアル/企画・編集/Web/動画...各種メディアにトータルクリエイティブを展開するデザイン会社の日常。

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